5月23日・24日、盛岡市で「東北絆まつり2026」が開催されました。
東日本大震災からの復興をテーマに、東北6県が持ち回りで開催しているこの祭り。
今回は約30万人が来場し、各県を代表する祭りや演舞が盛岡の街を彩いました。
その一方で、近年深刻化しているのが「市街地へのクマ出没」です。
今回私たちは、東北絆まつり実行委員会を構成する盛岡市担当者様から、
「ドローンを使って、祭り会場周辺へ侵入してくるクマを監視できないか」
というご相談をいただき、ドローンによる警戒監視任務を実施しました。
その活動をご報告します。
【事前打合せと準備】
私たちはこれまで、遠野市でのシカ獣害対策において、赤外線ドローンを活用した夜間捜索・シカ猟支援などを行ってきました。
今回まず、盛岡市環境企画課様を訪問し、住宅地へのクマ出没が頻発している現状や課題についてお話を伺いました。
「空から状況を確認できれば、クマの行動を早期に把握できるのではないか」
そんな思いから協議を重ね、その後、絆まつり実行委員会主幹である観光課担当者様より、
正式に監視業務の打診をいただきました。
しかし、岩手県の県都・盛岡市中心部で開催される大規模イベントです。
当然ながら、会場上空でのドローン飛行は禁止されています。
そこで今回は、盛岡市内を流れる北上川・中津川・雫石川の河川上空を活用し、
クマの侵入が想定される2つのエリアを重点的に監視する体制を構築しました。
【使用機材】
今回使用した機体は、
- DJI Matrice 4T
- DJI Mavic 3 Thermal
の2機種。
いずれも赤外線カメラと高倍率ズームカメラを搭載した産業用ドローンでありながら、
比較的軽量で静音性が高く、住宅地でも運用しやすい機体です。


機材調達には、ドロサツ‼様にもご協力いただきました。
また、知り合いのドローンパイロットの皆様にも協力をいただき、以下の準備を進めました。
- 国土交通省への飛行申請
- 河川国道事務所への河川敷一時使用許可申請
- 盛岡東警察署への実施計画書説明
- 岩手県警警備課との情報共有
関係各所と連携しながら、安全面を最優先に準備を進めました。
【実施当日】
そして迎えた5月23日・24日。


監視任務は両日とも朝8時から18時まで。
30分ごとにバッテリー交換を行いながら、長時間にわたる警戒監視を続けました。
特に緊張するのは、その日の最初のフライトです。
「夜間のうちにクマが河川敷へ侵入していないか」
慎重に確認しながら飛行を開始します。


24日午前8時40分頃、中津川上流・山賀橋付近で、赤外線映像に白い反応が現れました。


「クマか!?」
一瞬緊張が走りましたが、ズームして確認すると……

そこにいたのは小鹿でした。
警戒対象のクマではなく、まずは一安心です。
【監視の難しさ】
最も難しかったのは、3つの河川が合流するエリアにある鬱蒼とした林です。
盛岡駅から徒歩5分程度の場所に、山奥の林道のような光景。
クマがいてもおかしくありません。

赤外線カメラは非常に有効な装備ですが、万能ではありません。
葉の陰や草むらの奥にいる動物までは完全には捉えられません。
そのため、
- 空中でホバリングしながら反応を確認
- 高度を下げて詳細確認
- ズーム機能で丁寧に探索
- 赤外線と可視光カメラを切り替えて確認
といった作業を繰り返しながら、慎重に監視を行いました。


また日中は、石やコンクリートも熱を持つため、赤外線映像だけでは判別が難しい場面もあります。
そうした時は、通常カメラ映像による確認が非常に重要でした。
その後も、ネコや野鳥などへの反応はありましたが、クマの姿を確認することはありませんでした。
24日は午後から霧雨となり、後半は車内から状況を監視しながら対応を続けました。


【実施を通して感じたこと】
2日間の監視を通じて、幸いにもクマの祭り会場への侵入は確認されませんでした。
今回の運用を通して、特に感じたことは次の通りです。
- オペレーターと監視員の2名体制でも、広範囲を効率的に監視でき、省力化につながる
- 草木が多い河川敷では、上空からの赤外線+ズーム監視が非常に有効
- 赤外線だけでなく、可視光カメラの併用が重要
- 雨や強風では飛行できないため、代替監視手段も必要
- バッテリー交換時の“監視空白時間”をどう補うかが課題
- 飛行申請から許可取得まで、通常は約1か月程度必要
今回のような大規模イベント警備において、ドローン監視は一定の有効性を持つ一方、
制度面・運用面にはまだ多くの課題が残っていると感じました。
【今後に向けて】
今回の任務を無事故で完遂できたことは、私たちにとって大きな経験となりました。
近年、ツキノワグマによる人的被害は深刻化しており、これまでの常識では考えられなかった事案も発生しています。
クマ対策は、今や地域社会全体の緊急課題です。
昨年末には、自治体からの要請があれば、事前許可なしでドローンを飛行できる規制緩和も行われました。
しかし実際の現場では、
- 自治体がどのような形で要請を出すのか
- 業者側はどのような手続きを行えば良いのか
- 緊急時に誰が最終判断を行うのか
といった具体的な運用フローが十分に示されていません。
そのため、現場が判断に迷っている間にも、クマは出没し続けています。
今後は、自治体との平時協定や、緊急時の即応体制づくりが不可欠だと感じています。
例えば、自治体要請時には、一等無人航空機操縦士を有するパイロットに対して、
市街地上空でも迅速に飛行できる特例運用を整備するなど、
現実的な制度設計が求められているのではないでしょうか。
今回の経験が、今後の安全対策や制度整備の一助となれば幸いです。
